14曲からなる電子音楽の作品集。そのほとんどが"Piano 2024"に収められているピアノ曲のアレンジとなっている。
アレンジの形態は、原曲のピアノ曲に音色、リズムトラック、ランダムで点描的な音響を加えたものや、原曲をもとに生成した持続音に音色を加えたものなどがあり、電子音楽ならではのアレンジを意識しながら、その色彩やテクスチュアの表現の可能性を自分の中で探っていった。
アルバムの中では、前半7曲が陽の音楽、後半7曲が陰の音楽を志向したものとなっており、例えば1曲目の"Dancing Petals"と8曲目の"Dancing Snow"など、前半と後半のそれぞれの曲が対応する構成となっている。
Dancing Petals
色彩が聴覚的に満たされるような、明るく柔らかい音使いをしている。最初はやや色褪せた響きから始まり、主題が繰り返される所から色が溢れ出す。通常、ある楽曲はそれに適した音色形態があると思うのだが、"Dancing Petals"は電子音響とピアノ独奏のどちらでも馴染むように感じられる。
Spring Flow
原曲と大きく印象が異なるアレンジにした。常に流動する有機的な持続音、乾いた音色の予期できないタイミングで明滅するランダムなビート、その2つの要素の強い対比が特徴。
Awakening
原曲のピアノ独奏版よりは楽しさや前向きな感情が前面に出ている気がする。いわゆるDTMらしい音楽の王道、かどうかはわからないが、すっきりとクセがない真水のようなアレンジとなり、気に入っている。
Pulse
"Piano 2024"には含まれていない作品。旋律や和音による音程や色彩が感じられる曲ではなく、リズムやノイズの立体的なデザインに重点が置かれている。規則性と不規則性の混ざり合いが作品のテーマ。
Drunk
おもちゃのようなアレンジを目指し、遊びながら曲を作るように制作した。様々な音色やリズムが入り乱れた、楽しい遊園地のような世界。自分本来の音楽性からはかなり遠く離れた仕上がりになったが、このような趣向も悪くはない。
Sunshine
流動する持続音を主体としながら、ピアノやオルガンの音がそこに寄り添い、空間を彩る。原曲のピアノ独奏版の輪郭は聴こえにくいが、夏の陽光のような響きは電子音響により強められている。
Tiny Flower - Bloom
原曲の世界を保ちながら、そこに淡くやさしい筆使いで色彩を添えた。原曲と比べ、ハープのような音色による点描的な音や、風のようなノイズが加えられている。
Dancing Snow
色彩をやや抑えながらアレンジした。ベース音やノイズを追加することで、奥行きや質感を持たせている。全体的には過剰に手を加えずに、薄く色づけをする程度に仕上げた。
Autumn Flow
"Spring Flow"と同系統のアレンジ。流動する持続音と、出現しては消えるランダムなビートの、2つの要素で構成。持続音にはざらついたような、ビートにはやや柔らかい音色を設定し、"Spring Flow"と異なる印象にした。
Hallucination
プログレッシブ・ロック調なアレンジに仕上げた。毒を持った紫色のような響きを目指して音色を選んだが、聴く人によって感じる色が大きく異なるようなアレンジになっていれば面白いと思う。
Harmony
浮かんでは消えていく和音の響きを主体とし、和音に寄り添いながら空間を彩る音と、和音同士をつなぐ「間」の、全部で3つの要素で構成されている音響デザイン的作品。これも"Pulse"と同じく、"Piano 2024"には含まれていない楽曲。
Blue
原曲は2つの部分とコーダからなる楽曲構成。それに合わせて、前半と後半を全く異なるアレンジにした。前半はモノトーンの響きと乾いたノイズ、後半は水のような潤いのある広々とした響き。
Breeze
"Sunshine"と同系統のアレンジ。アンビエント風な浮遊感があるが、原曲の輪郭は割と聴こえやすいと思う。後半からは邦楽器の箏のような音や断片的なノイズが立体的に配置され、空間を彩る。
Tiny Flower - Wither
私には曲想と音色の一致がとても強く感じられるアレンジ。主旋律と和音の音色に柔らかくも冷たい風のようなノイズが纏い、全体的にはセピア色のような朽ちた音世界となっている。
木村 真人 / Masato Kimura